研究について

ゲージ・重力対応の応用

ゲージ・重力対応(AdS/CFT対応、ホログラフィーとも呼ばれる)とは、ある種の量子場理論と高次元の重力理論が等価であることを予想する双対性である。このゲージ・重力対応を応用することで量子多体系では解析が困難な様々な現象を、古典的な重力理論を経由して調べることができる場合がある。このように、凝縮系物理学や原子核物理学、量子色力学へとゲージ・重力対応を応用する分野を”Applied holography”と呼ぶことがある。

私は特に非平衡定常状態(Non-equilibrium steady state: NESS)や相転移・臨界現象、流体力学などへの応用に興味を持ち以下のような研究を行ってきました。

  • 電場・電流存在下の定常状態における相転移・臨界現象
  • 電流駆動によるカイラル対称性の自発的破れと三重臨界点の臨界現象
  • 散逸系におけるNambu-Goldstoneモードの解析
  • 非平衡定常状態における緩和流体力学の定式化と検証
  • 空間的非一様な凝縮解の構成と解析

(左)D3/D7モデルを用いた電流:\(\,J\,\)をコントロールすることで起こるカイラル対称性の破れ(\(\,\chi {\rm SB}\,\))と三重臨界点(Tricritical point: TCP)の出現(Phys. Rev. Lett. 124, 191603 (2020), Phys. Rev. D 106, 026006 (2022).

(右)ホログラフィック超流動モデルを用いた空間的に非一様な凝縮:\(\,\langle O_{2}\rangle\,\)と位相:\(\,\gamma\,\)を持つ解の構成(Phys. Rev. D 104, 066007 (2021).

開放量子系

開放系とは、着目する系とそれと相互作用する大自由度の環境から構成される系であり、一般に環境によって着目系が駆動・散逸される効果を考慮する必要がある。孤立量子系ではダイナミクスはHamiltonianによるユニタリー発展によって記述されるが、開放量子系では一般に非ユニタリー発展によって状態が変化し、着目系のエネルギーなどは散逸により保存されなくなる。

主にゲージ・重力対応を用いて非平衡定常状態を研究する中で、対応する量子多体系が開放量子系の文脈で実現しうるのではないかという着想を得たことが本研究の出発点である。特に、Lindblad方程式によって記述される開放量子系では、Hamiltonianによるコヒーレントなダイナミクスな効果と環境への散逸によるデコヒーレントな効果の競合により「散逸量子相転移」と呼ばれる相転移が生じることが知られている。本研究では、この相転移と、系から環境への量子ジャンプによって特徴づけられる相関との関係を議論した。


(左)開放量子系の概念図。系は環境との相互作用の結果、非平衡定常状態:\(\,\hat{\rho}_{\rm ss}\,\)へと緩和する。環境で系からの量子ジャンプを検出することができ、単位時間あたりのジャンプをカレント\(\,J\,\)と定義することで、カレントの相関関数\(\,F(\tau)\,\)が計算できる。

(右)カレントの相関関数の時間変化。散逸量子相転移の前後(ここでのパラメータは\(\,J_{y}\,\))で相関関数の振る舞いが過減衰or減衰振動となる。(Phys. Rev. A 112, 012226 (2025).

準固有振動と超対称ゲージ理論の対応

ブラックホールを揺らしたときに現れる固有振動「準固有モード(Quasi-normal mode: QNM)」は、重力波観測を通じてブラックホールの性質を探る重要な量であり、基本的に数値計算により固有周波数が計算される。本研究では、素粒子理論における超対称性ゲージ理論「Seiberg-Witten理論」とQNMが従う方程式が数学的に同じ構造(合流型Heun方程式)を持つことに着目し、インスタントン数え上げと呼ばれるゲージ理論の手法を用いてQNM周波数を解析的・高精度に計算する方法を応用しました。特に、回転ブラックホール周りでの超放射不安定性や、有限質量ベクトル場の摂動などへと適用し、数値計算と高い精度で一致する結果を得ました。

J. High Energ. Phys. 2024, 336 (2024).
Phys. Rev. D 112, 046024 (2025).